- 2025年10月26日
- 2025年10月25日
秋の香り、キンモクセイと心と体の健康
秋になると、どこからともなく甘くやさしい香りが漂ってきます。キンモクセイ(金木犀)の花が咲く季節です。この香りをかぐと、懐かしい気持ちになったり、少し心が落ち着いたりする方も多いのではないでしょうか。実はこの「香り」には、私たちの心と体に関わる医学的な意味があることが、近年の研究からわかってきています。
キンモクセイの花には、リナロールやゲラニオールといった揮発性成分が含まれています。これらはアロマテラピーでも使われる成分で、神経の興奮を抑え、リラックス作用をもたらすことが知られています。実際に、健常成人を対象にキンモクセイの花の香りを吸入してもらい、唾液中のストレスホルモン(コルチゾール)の低下と、心理的ストレス指標(緊張、不安、抑うつ)の軽減が報告されました。香りを感じる嗅覚は、脳の中でも感情や記憶をつかさどる「大脳辺縁系」と直結しているため、香りが心の安定に影響を与えるのです。
また、キンモクセイのエキスには抗酸化作用や抗炎症作用を持つ成分も含まれています。これらは細胞の老化を防ぎ、生活習慣病の予防にも役立つ可能性があります。中国では古くから「桂花茶(けいかちゃ)」として親しまれており、のどの痛みや咳を和らげる民間薬として使われてきました。最近では、キンモクセイ由来のポリフェノールが血糖値の上昇を抑える作用を示すという研究も報告されています。
一方で、注意したい点もあります。キンモクセイの香りは強いため、香料に敏感な人やアレルギー体質の方では頭痛や吐き気、のどの違和感を感じることがあります。特に人工的に強調された芳香剤などではこの傾向が強くなるため、自然の香りを短時間、適度に楽しむのがおすすめです。
キンモクセイは秋の訪れを告げる花でありながら、実は心身の健康にもやさしい植物です。通勤や散歩の途中でふと香りを感じたら、深呼吸してみてください。香りの刺激が脳をリセットし、張り詰めた気持ちをゆるめてくれるかもしれません。
忙しい日々の中に、自然の香りを取り入れる――そんな小さな習慣が、心の健康を守る第一歩になるのです。