• 2026年8月15日

実家に帰ると、なぜ昔のことを思い出す?― お盆明けに考える「記憶」と脳の不思議  ―

今年のお盆も終わり、日常の生活に戻られている方も多いと思います。
帰省先から戻る途中や、ふとした瞬間に「そういえば昔こんなことがあったな」と、子どもの頃の記憶がよみがえった方もいるのではないでしょうか。
実家の風景、懐かしい道、仏壇の線香の香り、夕暮れの蝉の声……。
お盆の間に触れたこうした刺激は、普段の生活では眠っていた記憶を呼び起こす「きっかけ」になります。
では、なぜ私たちは実家に帰ると、昔のことをこれほど鮮明に思い出すのでしょうか。

記憶は「消えた」のではなく、思い出せなかっただけ?
私たちは日々、多くの情報に触れていますが、そのすべてを自由に思い出せるわけではありません。
記憶には「覚える(記銘)」「保つ(保持)」「思い出す(想起)」という段階があります。
「忘れた」と感じていても、実際には記憶が消えているのではなく、思い出すためのきっかけがなかっただけということも少なくありません。
そして実家には、その「きっかけ」が数多く存在しています。

景色や匂いが記憶を呼び起こす
子どもの頃に通っていた道を久しぶりに歩くと
「ここに駄菓子屋があった」
「この角で友達と待ち合わせをした」
「この坂道を自転車で上った」
など、次々と昔の記憶がよみがえることがあります。
これは、視覚・聴覚・嗅覚などの情報が「手がかり」となり、脳の中に保存されている記憶を引き出しているためです。
特に「匂い」は記憶と強く結びついています。
線香の香り、畳の匂い、蚊取り線香、夏の夕立の匂いなどは、何十年も前の記憶や感情を一瞬で呼び起こすことがあります。
ある匂いを嗅いだ瞬間、それに関連した昔の出来事や感情が鮮明によみがえる現象は、文学作品にちなんで「プルースト効果」とも呼ばれています。

「海馬」は記憶の司令塔
記憶に重要な役割を果たしている脳の場所の一つが、側頭葉の内側にある「海馬(かいば)」です。
海馬は、新しい出来事を記憶として整理し、長期的に保存していく過程に深く関わっています。
また、記憶は海馬だけに一冊の本のように保存されているわけではありません。
見た景色、聞いた音、匂い、そのときの感情など、さまざまな情報が脳の複数の領域にまたがって記憶されています。
そのため、実家という「昔と似た環境」に戻ると、視覚、聴覚、嗅覚などから多くの手がかりが同時に入ってきます。
それらが記憶のネットワークを刺激して、「そういえば、こんなことがあったな」と昔の出来事がよみがえってくるのです。

なぜ「最近のことは忘れるのに、昔のことは覚えている」の?
高齢の方と話していると、「昨日何を食べたかは覚えていないのに、子どもの頃のことは驚くほど詳しく覚えている」ということがあります。
認知症、特にアルツハイマー型認知症では、記憶を新しく作る力(特に海馬の機能)が低下しやすいため、最近の出来事を覚えることが難しくなります。
一方、何十年も前の記憶は長い時間をかけて脳内に定着しているため、病気の初期には比較的保たれていることがあります。
そのため、「昔のことをよく覚えているから認知症ではない」とは限りません。
むしろ、昔の話は非常に詳しいのに、最近聞いた話を何度も尋ねたり、同じ話を繰り返したりする場合には、認知機能の変化が隠れていることもあります。

お盆の記憶は「家族の記憶」でもある
お盆の期間は、家族や親戚が集まり、昔の話をする機会が増えます。
昔のアルバムを見ながら、「この頃はどんな生活をしていたのか」「この人はどんな性格だったのか」といった話をすることは、単なる思い出話ではありません。
それは、家族の記憶を次の世代へとつないでいく時間でもあります。
また、こうした会話は高齢の方にとっても、自分の人生を振り返る大切な機会になります。

お盆が終わった今だからこそ
お盆が終わり、日常に戻った今、ふとした瞬間に思い出す記憶があるかもしれません。
それは、実家の風景や家族との会話が、脳の中に残っている記憶をそっと刺激しているからです。
人の記憶は、完全に消えるものではなく、きっかけによって何度でもよみがえります。
今年のお盆に感じた懐かしさや会話を、ぜひ少しだけ思い返してみてください。
そこには、自分自身の過去だけでなく、家族の歴史も静かに息づいているはずです。

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